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第1章 77 怪しいヤコブ

last update Last Updated: 2025-09-06 19:19:41

「ねぇ、何処へ行くの? ヤコブ」

「え!?」

ヤコブは驚いた様子で振り返った。

「ク、クラウディア様……ど、どうかされたのですか?」

明らかに狼狽えた様子をみせるヤコブ。

「ええ。横になって休もうかと思ったのだけど……なかなか眠れずにいたのよ」

「眠れなかった……? そんなはずは……」

本人は小声で言ったつもりかもしれないが、最後の呟きは聞こえていた。

けれどあえて聞こえないふりをすることにした。

「ヤコブ、貴方も眠れなかったの?」

「え、ええ……そうなんです。それでこの廃村で旅に使えそうな物は無いだろうかと探しに行こうとしていたのです。なのでどうぞクラウディア様はお休み下さい」

「なら私も行くわ。1人よりも2人で一緒に探した方が早いでしょう?」

立ち上がり、ヤコブに近付くと足を止めた。

「し、しかし……」

明らかに動揺を隠せないヤコブ。

「どうしたの? 早く行きましょう」

「いえ、どうぞクラウディア様はお休み下さい。一介の兵士の用事に王女様が付き添うものではありませんので」

「そんなこと気にする必要無いわ。でも休むのなら私よりもヤコブの方が休むべきじゃないかしら? 私は馬車の中でいつでも休めるけれど、貴方は馬に乗っているから休めないでしょう?」

「それなら大丈夫です。我々兵士はそれこそ戦争中は丸2日寝ずに進軍した経験もありますので」

ヤコブはあくまで引こうとはしない。彼が何処へ行こうとしていたかは分かり切っている。だからこそ尚更私は彼の動きを止めなければならない。

「戦争はもう終わったのよ。だからもう無理する必要は無いでしょう? ヤコブ。貴方は『シセル』が今どれだけ大変な状況に置かれているか分かっているのでしょう?」

「え、ええ……。ですが、何故クラウディア様がそのことを……?」

「私は『レノスト』国の姫よ? 領地で何が起こっているか位把握しているわ」

本当は回帰しているからこそ知っているのだが、その話を口にするわけにはいかない。

「クラウディア様……」

「これから向かう『シセル』は行くだけで危険な場所なのでしょう? 私はあの死にかけた村を救いたいの。その為には貴方たちの助けが必要なのよ。だから……1人でも欠けて欲しくないの。お願いします」

私はヤコブに頭を下げた。

「よ、よして下さいクラウディア様! そんなことされたって……俺は……」

その時――

「何してるん
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